情報系が物申したくなる医療マンガ – 『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見』

ドラマ化もされた、「病理医」というマイナー科に視点をあてたマンガです。

フラジャイル 病理医岸京一郎の所見フラジャイル 病理医岸京一郎の所見(アフタヌーンコミックス)

病理医は患者とは直接携わることのないB2B的な診療科であるため、医療関係者でもないかぎり聞いたことのない人も多いのではないでしょうか。

そんな知られざる病理医の働きっぷりを知れるだけでもおもしろいのですが、特に情報系の人にとっておもしろい点も盛りだくさんです。

まずは病理医の仕事内容を見てみましょう。

『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見』

検体(尿、血液、体組織)という入力に対して、評価処理を行い、診断というアウトプットを出す「病理診断報告」。

情報系のみなさま、どうでしょうか?

過去の患者たちの膨大な訓練データと新たな患者の検体を元にクラスタリングするタスクが思い浮かびますね。

そういえば僕たちの体は、日々たくさんのバイタルサインを垂れ流す「歩くビッグデータ」です。人力では無理でも、コンピュータに任せればもっとたくさんの入力を扱って、有用なデータを峻別できそうなのに。

…などなど、ついつい物申したくなってしまうのが『フラジャイル』の魅力です。

実は本書には放射線診断科も登場するのですが、こっちの科のほうが熱量高くツッコミたくなります。

『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見』

放射線診断科はMRIやCTを扱って画像診断をする診療科なのですが、このシーンはCTが隆盛しはじめた時代に人手が足りず大量に吐き出される画像を放射線医師が診断をしているところです。なかなかブラックですね。

「2万枚の読影…? うおおおおおおおおおおお、なぜ機械にやらせねぇんだ!」って思っちゃいますよね。

医用画像処理なんて言葉で聞くと機械学習の典型的な応用分野のはずだから発展途上なんだと分かってはいても*1、ついついマンガを読むと熱くなってしまいます。

他にも、放射線医師が画像処理をチューニングして解像度を向上させる描写もあって、興味は尽きないです(ほんとにそこまでやってた人いるのか? ってツッコミを入れるのも楽しみの1つです)。

『フラジャイル 病理医岸京一郎の所見』

一昔前の放射線診断科はCTが登場していなかったこともあり、放射線治療科に比べても存在感が薄く、雑用をさせられていたのでCTが登場したときは何とかして活躍したかったそうです。

…と、こんな様子で楽しく読めるマンガです。

僕はある意味、「ほえー、すげぇなー」としか思えない外科医のマンガよりもおもしろいと思いました。

本来、エビデンスに基づく医療 – Wikipediaという医療用語があるように、医療と統計は切っても切れない関係にあることを改めて認識しました。

『フラジャイル』では「患者のため」に働く難しさがテーマの1つとなっていますが、実用にたえる画像処理の機械学習が可能になってきている今、医療関係者ができるかぎり患者に集中できる時間を捻出するための良き補助ツールとして機械学習が導入されていってほしいところです*2

ちなみに、冒頭で病理医について説明しているイケメン青年は臨床検査技師です。僕の個人的な見立てですが、機械学習による診断は、彼のようなのコメディカルの役割の1つになっていくのではないでしょうか。

麻酔科医ハナ
麻酔科医ハナ(アクションコミックス)

ところで、本作では麻酔科が病理科や眼科と並んで定時退社ができる「9時5時科」の1つに数えられていたのですが、これはどうにも『麻酔科医ハナ』の麻酔科の激務っぷりとは大きな隔たりがあります。なぜなのだろうか。

脚注

  1. 同じくマイナー化を扱った医療マンガ『麻酔科医ハナ』ではマンガの展開を盛り上げるために意図的に時代設定を古くしているそうなので(電子カルテを出現させないなど)、『フラジャイル』も同様の演出がされているのかもしれませんね
  2. 医療行為を定量的に評価するPROACTIVEモデル(「医療資源の問題から患者の価値観まであらゆる要素を考慮に入れ、確率論で数値化・自動化できる計算はコンピュータに任せ、最終的な価値判断を行う」)があるそうです

Author: @i05

A Tokyo based software developer, a grad student belongs to a security lab at JAIST, and a husband of my mrs.